補聴器は低下した聴力を補うもの。このためその役割も小さな音を大きくするということが注目されますが、それでは大きな音までも大きくしてしまったらどうでしょう。
人間の耳は周りの音の大きさや種類によって、感度を調整しています。しかし大きすぎる音に対しては、この感度調整の幅を越えてしまい、こうした環境下においては、私たちは耳を手で覆ったり、指で塞いだりすることで、耳を保護します。
中耳にある小さな骨は耳小骨と呼ばれ、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨という三つの骨は、主に振動を増幅しながら内耳に伝える役目を持っていますが、突発的に大きな音が耳に飛び込むと、これらの骨をつなぐ連鎖が弛み、強大な振動による信号を内耳に伝えるのを抑制します。
補聴器もこれと同様、感度を調整することとは別に、過大な音から耳を守る機構が用意されています。これはメーカーにより呼び方が異なりますが、「ピークカット」、「ピークコントロール」などと呼ばれ、記号では「PC」、「MPO」といった表記がされます。
このピークカットの仕組みですが、音の大きさとなる振幅を、設定した場所で削ってしまうことで、最大出力を抑制します。このため、出力を抑制するという点では大変効果的なのですが、ピークカットが働いている間に出力される音は歪んだ聞き取りにくい音になってしまいます。
小さい音は良いのですが、大きな音が入力されると、増幅された音はうるさく感じてしまいます。 |
大きすぎる音はわずらわしいだけではなく、耳へも悪影響を与えるため、設定した振幅を越えたら、その突出部分を切り取り、耳に伝えられる出力音を抑制します。波形をカットすることで、音質は歪んだ音になってしまうため、近年ではノンリニア増幅と組み合わせ、瞬間的な強大音の抑制に用いられることが多くなっています。 |
過去の補聴器では出力を制限する方法がピークカットしかなかったため、高出力の補聴器を用いる場合や、大きな音が響いてしまうという聴力の方に対する調整では、音や言葉が不明瞭となりがちでした。
近年は内耳の持つ感度調整機能を装備した補聴器が増加し、ピークカットの役割も人間の耳と同様、感度調整では抑えきれないような音にのみ利用されるようになりました。自動音量調整が当たり前になった現在でも、ピークカットは耳を守る最後の砦として、大切な役割を担っているのです。
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